最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)1238号 判決 1969年9月11日
上告人(被告・控訴人) 大府町
上告人(被告・控訴人) 深谷清
右両名訴訟代理人弁護士 野村均一
同 大和田安春
同 永田水甫
被上告人(原告・被控訴人) 加古保孝
右訴訟代理人弁護士 宗本甲治
同 大道寺徹也
主文
原判決中上告人大府町の敗訴部分を破棄し、右部分について本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
上告人深谷清の上告を棄却する。
上告人深谷清の上告費用は、同上告人の負担とする。
理由
上告代理人野村均一、同大和田安春、同永田水甫の上告理由第一点について。
原判決は、被上告人と訴外叶産業株式会社との間に、昭和三六年八月八日頃、被上告人は訴外会社に対し本件土地(実測一、一七一坪)を代金として坪当り五五〇〇円合計六四四万五〇〇円のほか坪当り二五〇〇円またはこれに相当する右訴外会社の株式を被上告人において受け取るものとして売り渡す旨の契約が成立したが、その際、上告人大府町において訴外会社の右代金債務のうち前記坪当り五五〇〇円の分につき保証をした旨の事実を認定したうえ、上告人大府町に対し、右保証債務の履行として五八万九八〇〇円およびこれに対する原判示遅延損害金の支払を命じている。
原判決の右判示によれば、右保証は上告人大府町の長が同上告人を代表して被上告人との間で締結したことを認定した趣旨であることが明らかである。
ところで、地方公共団体の長は当該地方公共団体を代表し、その事務を管理執行する権限を有するが、議会の議決を経べき事項についてはその議決を経ないかぎり当該行為についての代表権限を有しないから、議決を欠くときは該行為は無権限の行為として無効と解すべきところ(当裁判所昭和三二年(オ)第一二〇四号、同三五年七月一日第二小法廷判決、民集一四巻九号一六一五頁参照)、地方自治法(昭和三八年法律第九九号による改正前)九六条一項八号によれば、原判示の保証契約締結行為が議会の議決を要する事項にあたることは明らかである。しかるに、原判決は上告人大府町が判示保証契約を締結するについて同町議会の議決を経た事実を認定していないばかりでなく、本件記録に徴しても、右保証について議会の議決があった旨の主張がなされた形跡はない。そうであるとすると、原審が、上告人大府町の保証責任の成立を判断するにあたっては、よろしく被上告人に対し議会の議決の存否について釈明を遂げたうえ、その主張の採否を決すべきものであったものというべきであり、かかる措置に出ることなく、漫然と右保証が有効に成立したものと判断して上告人大府町に対し保証債務の履行を命じた原判決には、結局、地方公共団体の長の代表権限について法令の解釈を誤り、ひいて審理不尽の違法があるものというべきである。してみると、右と同旨をいう上告人大府町の論旨は理由があり、原判決中同上告人の敗訴部分は、その余の論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。
同第二点および第三点について。
原判決の判文を全体として通読すれば、その措辞不十分な点がなくはないが、原審は、上告人深谷について、同上告人は被上告人に対し、原判示のころ、前記坪当り五五〇〇円合計六四四万五〇〇円の代金のうち、当時の残代金につき、上告人大府町とともに共同保証をし、かつ相保証人である大府町と連帯して保証にかかる債務全額の支払をなすべき旨を約したことを認定した趣旨に解しえられるのであり、その認定判断は原判決挙示の証拠関係によって是認しえないものではないから、原判決に所論の違法はない。それ故、上告人深谷の上告論旨はすべて採用しがたい。
以上の次第で、原判決中上告人大府町敗訴の部分が破棄を免れないこと前記説示のとおりであるが、被上告人の右請求については、前記議会の議決の存否につき、また、有効な保証契約の成立が認められないときには予備的主張である表見代理の成否等につき、なお審理を尽す必要があるので、右破棄部分につき民訴法四〇七条を適用して本件を原審に差し戻すべきものとし、また上告人深谷の上告が理由のないこと前記のとおりであるから、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、これを棄却し、上告費用は同上告人に負担させるものとする。
よって、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)
上告代理人野村均一、同大和田安春、同永田水甫の上告理由<省略>